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【二葉】(……なんだったんだろう、あれ……)
理解不可能な状況。思考すらも呆然としていた。犬が人の姿を取り、人が怪物に変化する。ありえない事象。常識の範疇を越えた光景。
目の前で繰り広げられていた、その恐怖。
一度はそれに気絶もしかけた。今まで普通の世界に生きていた二葉には、その光景はあまりにも醜悪すぎた。
虫と獣の体を併せ持つ怪物。子供の頃に見た特撮の怪人のようだとも思ったが、それが現実に姿を現すことなどありえない。
琳、瑞姫、そして十三ですら――そんな存在になっていた。知らぬ内に。琳はまだいい。元々すれ違う程度の仲だ。
むしろ彼に関しては、そんな事情かあったからこそ、高校生を撃退できた理由にも納得がいく。
けれど――十三は。
おそらくそのせいで、瑞姫と知り合ったのだろう。そしてそのことを、二葉に知られまいとひた隠しにしていた。
【二葉】(……どうして?)
一番親しいのは自分だと、そう思っていた。もちろん彼とて思春期の少年だ。話しにくいことだって存在するということはわかる。
ただ――なんでも話してくれるものだと、そう思っていた。そう信じていた。だからこそ余計に苛立つのかもしれない。
嬉しかったから――余計に、そう感じてしまうのかも、しれなかった。
名前を呼べば助けに現れてくれる十三。多勢に無勢でも飛び込んできてくれたその姿は、まさに二葉のヒーローだった。
何度も苦痛を背負い、それでも立ち向かい、自分を助けてくれる十三。
そんな十三だからこそ――。
【二葉】「十三ちゃんは……」
【十三】「うん? どうか、したか?」
【二葉】「なんでも、ない……ごめん、気にしないでね」
【十三】「? ああ」
二葉は、十三の背中に担がれながらさきほどからそのような気のない言葉を繰り返していた。
最初から最後まで、ずっと見ていたなんてどう説明すればいいのだろう。そしてあれが何だったのか、十三に聞くこともできやしない。
十三はそれを隠していた。だから最初はあんな風にやられてしまったのだろう。二葉が見ていないと思ったから、あの不思議な力を使うことができたのだ。
何かしら、隠すだけの理由が存在するはず。それが何なのか、予想することはできる。その姿を見られて、嫌われるとでも思ったのかもしれない。
お人好しの十三のことだから、自分を巻き込みたくないとでも考えたのかもしれない。
それは自惚れかもしれなかったが――昔からずっと見ていた二葉からすれば、十三ならばそう考えると自然に思えた。
話してくれなかったことに多少の不満はある。けれどそれが十三の優しさなのだろう。なら、二葉は姉としてそれに応えてあげなければならない。
背中から回した手で、十三の体をぎゅっと抱きしめた。
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