●イベントCG+サンプルシナリオ

【フォロン】
「……だれ?」

我に返った少年は、とりあえずそんな問いを取り繕った。
だが彼女は苦笑を浮かべて首を振る。名乗る意味が無いという事か。彼女は再び笑みを優しいものに戻して囁く様に言ってきた。

【???】
「お前の歌に誘われて来た」

【フォロン】
「あ…………」

少年は絶句する。
恥ずかしい。今まで誰にも聞かせた事は無かったのだ。孤児院で皆で歌う事は在っても、誰かの前で自分一人で、それも思い付くままに適当に歌う事など無かった。余計な事をしてこれ以上、皆に馬鹿にされたり嫌がられたりするのが怖かったのだ。
少年はただただ黙り込むしかない。
この女性は少年の歌をどう思ったのだろうか。呆れただろうか。馬鹿にするのだろうか。微笑んでいるから怒りはしないと思うのだが。それともただ単にうるさいと文句を言いに来たのだろうか。
不安ばかりが大きくなっていく。
だが――
【???】
「恥じる事は無い。お前の歌――良かったぞ」

【フォロン】
「…………」

最初……女性の言葉の意味が分からなかった。
褒められた事があまり無かったからだ。
少年にとって賞賛の言葉とは自分以外に向けられるものであって、自分が言う事は在っても、言われる事など殆ど無かったのだ。
しかし……
『お前の歌――良かったぞ』
その一言の意味がじんわりと彼の胸の中に浸透していく。
それが女性の本心から言われたものである事は何故かはっきりと分かった。
何か響き合うものが在ったのかも知れない。
例えば同じく独りぼっちである者同士の共感の様なものが。無論、少年には未だそんな複雑な感情に気付くだけの人生経験は無かったが――
【フォロン】
「…………ありがとう」

少年は礼を言った。
先生に教えられたからでも、相手がそれを期待していると分かるからでもなく、心の底から自発的に――生まれて初めて自分の感謝を伝えたくてその言葉を口にする。
だが気恥ずかしさも手伝ってかその声はひどく小さなものだった。
【???】
「……ん? 聞こえないぞ」

恥ずかしくて俯いた少年をからかう様に女性が声を掛けてくる。
【フォロン】
「…………」
【???】
「もう一度言ってくれ。恥ずかしがるな。男の子なのだろう?」

少年はしばし懊悩する。
恥ずかしい。でも嬉しいのは本当なのだ。本当に本当に嬉しかったのだ。
だから――
【フォロン】
「ありがとう。おねえちゃん」

少年は勇気を振り絞って顔を上げると――相手にちゃんと伝わる様にはっきりとした声でそう言った。