●イベントCG+サンプルシナリオ

【???】
「十三くん」
【十三】
「うわぁっ?!」

突然背中からかけられた声に、十三は飛び上がった。
くすくすと笑い声。振り向けばそこにあるのは、笑顔を浮かべた瑞姫の姿。ただし、昨日の晩に見たものよりも上品だ。
どうやら、猫かぶりモードであるらしい。
【十三】
「な、なんだよ、おどかすなよ」

【瑞姫】
「そこまで驚くことないでしょ」

瑞姫は他クラスなので、完全な不意打ちだった。体育は男女別にやる代わりに隣のクラスと合同になるから、同じ時間にグラウンドにいたのだろう。
【瑞姫】
「隣、いい?」
【十三】
「あ、ああ。別にいいけど」

そう答える十三の隣に、瑞姫は座る。
白くなめらかな足が日光を受けて輝いていた。
美しいヒップラインから続くそのなまめかしい脚部は、清純な男子高校生の目を奪うのには立派すぎる芸術品と言えるだろう。
その視線に気付いたのか、瑞姫は硬質的な表情に変わる。人目があるからか。確かに、周囲の視線は厳しい。
【十三】
(さえない男子と、学園のアイドルだもんなぁ……)

自分で考えておいて、ちょっとヘコむ。
学食から教室に戻ったときの詰問の嵐は、もう味わいたくないと思うほど大変だった。
けれど、瑞姫と会話できることは素直に嬉しい。
【瑞姫】
「……十三くんってさ」
【十三】
「な、なんだよ」

【瑞姫】
「会うたび会うたび、やらしいこと考えてない?」
【十三】
「なっ、何を根拠にそんなこと言うんだよ」

【瑞姫】
「さっきから視線が痛いんだけど?」

滑らかな足を、細い指先が這う。その光景に、十三は思わずドキリと胸が高鳴るのを感じた。
時代錯誤なことに、十三らが通う学園では未だに女子の体操服はブルマなのだ。
つまり、そのみずみずしい脚部は惜しげもなく白日の下にさらされているのである。
当然、男子の視線は広いグラウンドの中でソフトボールに興じる女子の生足に注がれていた。
【十三】
「てか、あっち大丈夫なの?」

【瑞姫】
「打順待ちだから。私のチーム、なんかヤケに打つ人多くて」

確かに、さきほどから長打が連続している。白球を追いかける女子生徒たちの黄色い歓声。
【瑞姫】
「ところでその眼帯、何? 目、どうかしたの?」
【十三】
「なんつーか……色、変わっててさ」

見せるために、十三は眼帯をずらした。久しぶりに感じる日差しが、右目を焼く。
【瑞姫】
「……悪魔憑きになったせい?」
【十三】
「多分、な。瑞姫はそういうのってなかったのか?」

【瑞姫】
「あるわよ。ヘソの近くに、黒いアザができてたの。普通のアザなら悪魔憑きの力で治るはずだけど、ずーっと消えないし」

悪魔憑きになると、肉体に影響が出るのは朝に体験した通りだ。おそらくはその二次的なものだろう。
日差しの強さに負けて、十三は再び右目に眼帯をかぶせた。あまり晒していて、人に見られれば言い逃れなどできそうにない。
【瑞姫】
「でも、いつまでも眼帯つけてるわけにもいかないでしょ?」
【十三】
「今度カラーコンタクトでも買いに行くよ。黒いヤツ」

【瑞姫】
「それがいいわね。ところで」

瑞姫の雰囲気が、それまでの穏やかなものから一変する。
【瑞姫】
「昨日、また事件があったの。知ってる?」
【十三】
「事件って……ああ」

確か、ニュースでもやっていた。
繁華街の方で男子高校生が意識不明の重態で発見された、という話。
傷跡と照合できる凶器が存在せず話題を呼んでいた。一連の事件との関連も疑われている。
犯人は――おそらく、悪魔憑き、というやつなのだろう。
【十三】
「……やっぱり、アレの仕業なのか?」

【瑞姫】
「おそらく。でね、頼みごとがあるんだけど」
【十三】
「何か、いやな予感がするんだけど」

【瑞姫】
「気のせいよ。ただ昨日の子をちょっと調べてもらいたいだけだから」
【十三】
「ああ、なんだそんなこと……って」

ちょっと待った。落ち着いてよく言葉を反芻しろ。
【十三】
「調べるって、昨日のアイツを?」

【瑞姫】
「そう言ったけど。その子がやったっていう可能性もあるし」
【十三】
「まあ、それはそうかもしれないけど」

【瑞姫】
「きっとやられたのが悔しくて他の奴を襲いにいったのよ。見逃すとか言っておいて、根性のひん曲がった奴ね」
【十三】
「まあ、確かにヒン曲がった奴だとは、思うけど」

確かにあの少年ならば、そこまでしていてもおかしくはない。だが昨日は少年とて消耗していたはず。そのまま誰かを襲う力が残っていたのだろうか。
【十三】
「今日の放課後に調べに行くのか?」

【瑞姫】
「うん。十三くんがね」

かきーん、と白球が空を割って飛んでいった。ホームランである。
湧き上がる女子たち。湧き上がらない十三の気持ち。
【十三】
「……なんかいやな予感当たった気がするんだけど」

【瑞姫】
「悪いけどわたし、生徒会のお仕事があるのよ」
【十三】
「待ってるよ。大丈夫。時間のことは気にしないでいいから」

【瑞姫】
「それはさすがに十三くんに悪いし。結構遅くなっちゃうから」
【十三】
「いやいや瑞姫こそ気にするなって。そのくらい全然大丈夫だし」

【瑞姫】
「……十三くん」
【十三】
「……瑞姫」

天使のお便りとも呼べそうな、甘い沈黙。まるでそれは恋人がするような――。
次第に瑞姫の顔が、十三の顔に寄っていく。
十三は、それを拒めなかった。
少しでも動けばその空気が壊れてしまうような、そんな気がしたのだ。
【瑞姫】
「くす」

しかし直後にやってきたのは、あのやわらかい感触ではなく、いたずらっぽい笑み。
【瑞姫】
「調べてきてくれたら、またキスしてあげよっかな」

耳元で、妖艶な声が響いた。ぞくりと十三の背中に震えが走る。
【十三】
「べ、別にそういうのは求めてない」

【瑞姫】
「ふぅん、じゃあ無償でやってくれるのね。ありがとう」
【十三】
「分かった、分かったよ。調べる」

いいように使われているのは半ば自覚しつつもあったのだが、どうにも彼女には逆らえない。
【瑞姫】
「ありがと。十三くんならきっと大丈夫だよね」

瑞姫が立ち上がっておもむろに伸びをした。
そらされる背中と共に強調される胸元。小高い丘。そこから望む光景も含めて絶景と言っていいものだった。


 


 
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